それは、なんとも不思議な形で起こった(更新済)
いまどきのブログに今日のお昼は何を食べたなどということを書くようなことはしないと自分でもわかっている。
が、昨日自分に実際起こった偶然の出来事は、どう説明したらこの感覚を伝えられるか疑問である。でも記録として残しておきたい。
それは、なんとも不思議な形で起こった。例えると春になったら凍土が気温の上昇とともに氷解するという現象が、知らないうちにサッと気がついたら起きていたというぐらいの非常に速いスピードで自分の前で起きた。
さっそくその経緯を始めるとする。
まず近所に20年近く通って行っているスーパーがある。
その入口には、最初にそのスーパーへ行く頃から、入り口にいつも居る人がいる。その存在を空気以上に目立たさせないような慎ましやかにいる物乞いの方である。
背がスラッと高く、肌の色は漆黒に近い感じである。
身体的特徴からアフリカ人であると分かるのだが実際どこの国の人であるかはわからない。物腰は柔らかで、一度コンパクトな文庫本ぐらいの大きさの本を読んでいるのを見かけたことがある。たぶんコーランの経典だと思う。
そこまでなのだ。
えっ?
そう、今日までの経過はそこまでなのです。
今までのこの長い時間、ある時期はほぼ毎日、このスーパー自体も数えて見れば2回以上買収されて店名もその都度変わり、当時からすると店内の様相も思いつかないほど変わっている。
それでも、この人はその当時からずっとここで毎日住んでいるかのごとく来てはそこにいたのだ。
しばらく前にそういう不特定身分の人に市の方から身分許可証的な物を配布するようになって、今ではその定期券みたいな身分証を首から下げている。
繰り返すが、まだスーパーが個人営業店の昼休みの制度を採っていた(午後一時から三時半まで閉めていた)ころから、今では24時間営業の店になっているのだから、隔世の感である。
この男性はそんな頃からずっとここへ来て未だにいるのだ。もちろん彼ばかりでない他の人もここへ来ることはあったが、残っているのはこの人だけだ。
ちょっと見ただけでも察する事ができるような温和な感じではあるのだが、話す機会はずっとなかった。
よく話すところは見かけたのだが、なぜかこちらから話そうという気にはなれなかった。
だが今回の状況は少し違っていたのである。
さてちょっとした買い物が済み店を出ようかなと思ったとき
なぜか人の気配を感じるとともに、いつもそこにいる男性のことを
思い出した。そして、この人も今日はいるのかなぁと後ろを振り返ると
なんとすぐ自分の後ろにこの初老の男性が立っていた。
なんというか、ちょっと驚いたとともに思わず話しかけてしまった。
「あのーいつもお見かけしてますが」
「はい」(澄んだ目が非常に綺麗で純真で愛嬌のある表情をしていた)
「実は初めて話しかけるのですが」
「私、いま飲食業に勤めていてもしよろしければこれ作ったばかりのお昼なのですが、差し上げたいんですが」
(その間も和やかな表情を崩さずじっとこちらの話を聞いていたが、
意外なことを話し始めた)
「あのー実はですね」
「はい」
「私は家に帰って食事をするんですけど」
「えぇ」
「ほとんど茹でたチキンとかしか食べないんですよ」
「糖尿病なので、食べるものが決まっているので」
ちょっと外見からは想像できなかったが、糖尿病だそうだ。
彼はそれでもこちらの気持ちが通じたのか、非常に残念そうな顔をして
申し訳ないけれどありがとうと繰り返した。
この20数年で初めてした一番長い会話が
これであるが
とても印象深い記憶の一つとなった。
さて受け取られなかったまかないであるが、
実は別にもう一人、心当たりがあった
この人物は若いのであるが、見かけるようになったのは
一年ぐらい前からだ。
非常に人懐こい表情で挨拶するので
挨拶だけを交わすようになってはいた。
家までの帰り道であるもう一つの小さなスーパーの前で
この人を見つけた!
実は最近気になっていたのは、この彼はいつも見かけると
明るい顔で挨拶をしてくるのだが、最後のときに見た時は
初めて見るような疲れた顔と憔悴しきった表情で
全くいつもの元気はなかった。
いつもは挨拶して素通りするだけだが、今回は話しかけてみた。
聞いてみると宗教上食べられないものはないとのことなので
例のまかないは快く受け取ってくれた。